ミントグリーン~糖度0の初恋~
「……何言ってんの?」
思わず敬語が消えた。
「だって、研究し尽くしたナポリタンでしょ?
マスターをそんなにやる気にさせたのって女性でしょ?
それも相当大切な存在の……でしょ?」
でしょ?でしょ?でしょ?って3連発するなよ。
「そんな大事なもの普通に出しちゃって本当にいいのかなー?」
あちらも敬語が消えた。
得意気な顔して憎たらしい。
思った以上に鋭い観察眼してるらしい。
もしくは俺の脇が甘すぎるのか?
「もう一番最初に食べさせたからいいの。
それとも食べれなくてもいいのかなー?究極のナポリタンだよ?」
「それは嫌!……じゃなくて嫌…です」
慌てて首を振る柿本さんに、ふんっと鼻を鳴らした俺は
「それでは、次回のご来店お待ちしてます」
重い木のドアを開けてやって柿本さんを見送った。
カタカタと階段を下りていく後ろ姿に彼とはいい付き合いになりそうだと俺の直感が働く。
「ふー」
見えなくなるまで背中を見送って、誰もいなくなった店内を振り向いた。
今日は火曜日。週頭の客入りはいつもこんなものなので気にしない。
『ここ昼も営業すればいいのに』
俺の中によみがえる甘い声。
「あいつ、どーしてんのかな……」
柿本さんのおかげで思い出してしまった『大切な存在』を想って、俺は小さく呟いた。