私の人生を決めてください
目が覚めたらすべてが夢だったらいいのに。



現実は甘くなかった。

視界から排除した思い出は今もクローゼットの奥に入っている。


頻繁に来ていた彼の姿がなければ家族も気付く。

「花菜ちゃん、サトルはいつ来るの?」

幼い妹が食卓でパンをかじりながら無邪気に聞いてくる。

「……んー、いつ来るかな?しばらく、忙しくって来れないって言ってたよ」

そう返すの精一杯。

心も時間もゆっくり妹に付き合っている暇はない。

「花菜、もう時間よ?」

妹のお弁当を詰めながらママが急かす。


助かった。


妹は彼になついていた。

物心ついた頃からよくうちに遊びに来るお兄ちゃんだ。

なついているのは仕方ない。


長い年月、わたしと彼の関係が私と彼だけの関係ではなくなっている。

彼のお母さんにもお父さんにももう会うことはないのだ。

それがなお悲しかった。


だから彼に連絡できない。

連絡してはっきりと別れを告げられるのが怖い。


今はまだ、距離を置いているだけ。



そう、少し離れているだけ。
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