一輪の花
夜明け
月明かりだけが今この部屋を照らす唯一の光源だ。
彼女は薄暗い部屋の壁に背を向けてベッドに横たわっていた。
視線の先には一輪の花があった。
その花は先日彼女の恋人がくれた物だった。
彼女より一つ年上の彼は先日彼女の元を去った。
別れたわけではない。
彼は自分の地元の都市に就職が決まったのだ。
彼とはほぼ同棲していた。
いつも一緒にいた。
しかし、彼は今この部屋にはいない。
部屋に唯一の大きな窓から春だというのに冷気が流れ込んできた。
さほど大きくない一室が必要以上に広く感じられるのを彼女は感じずにはいられなかった。