春色シルエット
春色シルエット
屋上のフェンス越しに見下ろす桜は、まるで桃色の海のようだ。
風に揺れて、花びらというしぶきが舞い散る。
私以外は誰もいない屋上は閑散としているけど、桃色の波間に見え隠れしている真新しい制服を着た彼のまわりは笑顔が行き交い賑やかだ。
……まあ、彼だけは相変わらずというか、興味なさげにそこに立っているだけなんだけど。
入学式の日くらい、楽しそうにすればいいのに。
「昔はあんな子じゃなかったんだけどなぁ……」
苦笑いしながら思わず独りごちる。
彼、郁人(いくと)と、私、奈央(なお)は、俗に言う幼なじみという関係だ。
郁人は私よりひとつ年下だけど、家が隣というのもあって、小さな頃から一緒に過ごしてきた。
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