春色シルエット


心の中で嘆いていると、郁人が男友達に何やら話しかけてからその場を離れたのが見える。

時間も時間だし、帰ったのかな。

私は彼の姿が見えなくなったのをきっかけに、落としていた視線を上げて頭上に広がる青空へと移した。

雲ひとつない水色のキャンパスは、どこか清々しい。

その光景に、小さい頃の記憶が蘇った。


まだ幼稚園の年長さんと年中さんだった私たちが、家の前、夏のジリジリとした日差しの下でやった影送り。

二人、小さな手を繋いで足元にある影を空へと移した時、郁人は魔法みたいだと言って喜んでいたっけ。


懐かしさに思わず頬が緩む。

そうして、自分の足元に伸びる影に視線を落とした時だった。


「何してんの、こんなトコで」


思い出の中で無邪気に笑っていた男の子の成長した声が聞こえて、私は驚きつつも顔を上げる。

屋上の扉の前に立っているのは、少し癖のある柔らかな髪を風で靡かせた郁人。


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