愛結の隣に悠ちゃん
四章:止まっていた記憶
「愛結、今度はちゃんと連絡するのよ、遅くなったらちゃんと電話でママに知らせるのよ、良いわね?」
あの日以来、母の口がうるさくなった。
愛結は苦笑いをしながら母の言葉一つ一つ丁寧に頷いて見せた。
「じゃあ。いってきますっ」
にこりと微笑みながら母に手を振り玄関を開ける。
隣にはもちろんいつものように悠人がいる。
「ママってば、心配し過ぎだよね?ちゃんと悠ちゃんと二人でいるのにねー」
悠人の手を握りながら困ったように言う。
その言葉に対して悠人は少し真剣な面持ちをする。
「愛結が心配なんだよ、二人にとっては大切な娘なんだから」
真剣な面持ちをやめれば、またいつものように優しい眼差しで愛結を見つめて笑う。
同時に、愛結のなかには“違和感”が出来た。
確かに、愛結は二人の娘である、引き取られたとは言うが。
しかし、悠人も大切な息子だ。愛情は悠人の方が強いはず、何故なら血の繋がる本当の子供なのだから。
「っ……悠ちゃん!!」
突然、大きな声を出すと悠人の手首を掴みついさっき出た玄関を再び開ける。靴を脱ぎ二階へ上がる。
そして、11年ぶりにとある部屋へはいる。
“悠人”の部屋だ。
「悠人っ……ちゃんと、愛結のこと見ててっ……愛結までいなくなったら、私っ……私っ……」
母が目に涙をいっぱいためて勉強机の上にある写真に話しかける。数年ぶりに入った悠人の部屋を見て懐かしさを覚える。
「ママっ……この人、分かる……?」
悠人の手首を掴んだまま母の方を向いてゆっくりと悠人の方に目を向ける。
「……?愛結、何をいっているの……?」
涙を溜めた母が目元を袖で拭いにこりと笑ってからきょとんと首を傾げる。
あぁ、そうだ……悠ちゃんは……。
愛結は数年前に止まった記憶を今思い出した。