愛結の隣に悠ちゃん
高3の冬、これから一般入試が始まる。
愛はすでにAO入試で私立の短期大学への入学が決まっている。
良介の進路は地元である。
詳しくは聞いていないが、多分そうだと愛は思っていた。
「かーえろっ」
高1の時、良介に愛が幽霊を見えると告白してからより一層二人は仲良くなった。
「せやな……なあ、愛。時間あるんやったら……話あんねんけど。喫茶店いかへん?」
良介が微笑みながら言うが、愛には本気で笑っているわけではないというのが分かった。
二人で行きつけの喫茶店に寄る。
カランカランと鈴の音が鳴り響く店内。
人は少ないが、料理は美味しく知る人ぞ知る名店なのだ。
「俺はコーヒーで愛はいつも通りオレンジジュースでよかったか?」
席について店員がテーブルに水の入ったグラスを運びに来たと同時に良介が注文する。
良介が愛に尋ねると愛は笑顔で頷く。
「……ねぇ、話って何?」
おそらく、良い話ではないのだろうと愛は確信していた。
良介の表情は曇っていて、言いにくそうにしている。
「……あんな、俺実は二年は海外でおんねん。俺、進路はずっと大学行こうとしてた。勉強もまあまあ頑張ってたつもりやった……けどな、経済的に難しくて、先生から勧められた大手企業って言われてる会社に採用が決まって、その会社ではな、新人教育は海外でしてて……海外、行くんや」
一切愛とは目を合わせようとせずに話す良介に愛はただくすりと笑った。
「よかった……別れ話でもされるのかと思ってた……」
ショックとか寂しくないと言えば嘘になるが、別れ話に比べれば比にならないほどありがたい。
「え……二年やで?二年海外におんねんで……?ええの……?」
「浮気なんかしないでしょ?それは信じてるし、浮気したとしてもまた愛に振り向いてもらえるように頑張るもん」
にこりと笑う愛に良介がほっとした表情をし、緊張して肩に力が入っており、その力の入った肩が脱力した。