愛結の隣に悠ちゃん
『誰だお前は!人の地に踏み入れるでない!』
言葉と同時に神秘的な光とこれまでにはなかった威圧感のある風と共に出てきたのは、これまでの神とは違う背丈が10メートルくらいある大きな大男だ。
愛結がその姿にあっけをとられてぽかんとしている。
「……ん、なんだ。お前、私が見えるのか……珍しいな。いつぶりだ。お前に似た女が数十年ほど前に来た……」
おそらく、母のことだと愛結が気付いた。
「名は、お前……名前は何と言う」
「忍足……愛結」
「ほぅ……おてんば娘の娘なのか」
くすりと口元に手を当てて笑う神。
どうやら、神は母のことを知っているのだと思った。
「あのっ……母をご存じなんですか……?」
「勿論。あんなおてんば娘忘れられん。妊娠しているというのにどんな無理をしてこの階段を上ったというのだ。それが心底気になって仕方ない」
神が顎に手を当てて言う。
「……お前の母上は今も天から見守られている。それだけは忘れるでない」
神がふっと笑えば愛結の目にうっすらと涙が溜まる。
“見守っている”ということに感動を覚えたからだ。
「……神様、条件はなんですか。私は今……願いを叶えてもらうため、神社巡りをしているのです」
しっかりと神の方を見て尋ねる。
「……お前には、二つのうちから一つ選ばせてやる。1つはお前のこれまでのボーイフレンド……財前悠人との記憶をすべて頂く、もう1つは……お前が友人を作ってその友人とここへ来るということだ」
神が出したのは二つのうちのどちらかを選ぶもの。
どうして悠人のことがわかったのだろうと愛結は内心思った。
そして、二つにはすぐさま愛結の頭の中で不安を覚えるものばかりであった。
記憶をすべて貰われてしまえば、悠人とのこれまでのこと、悠人の優しさ、存在までもが消えてしまう。
そんなの、絶対に嫌。
もう一つの方は、友達はどうにかしたら……なんとかなるかもしれないが、神社巡りのことを伝えれば必ず離れるし、他の人が見えないものを見えるなんて言えば、どう思われるかなんて……と、不安になる。