愛結の隣に悠ちゃん
「悠ちゃん……じゃ、ないの……?」
姿を変えて攻撃的となった火鏡崎野を見て震えた声で尋ねる愛結。
そんな愛結を見て慌てて攻撃をやめて我に返り愛結の方を見る。
「愛結っ……俺は、悠人だっ……信じてくれっ……」
「やっ、いやっ!」
愛結が怯えて目に涙をためて首を横に振る。
近付いてくる火鏡崎野を拒む。
そんな愛結を見ていると近づくのをやめる火鏡崎野。
「はっ。可哀想だな……ま、そんな記憶簡単になかったことにできるんだよ」
くすりと笑えば神の纏っている赤いオーラが火鏡崎野の体を締め付ける。
「消えな」
そういった瞬間、火鏡崎野の全身を包み込みぱりんとガラスのように赤いオーラが消えて膝をつけて苦しそうに胸を押さえる火鏡崎野。
さすがにかわいそうだと思いゆっくりと近づいく。
「……大丈夫……?」
愛結が心配そうに火鏡崎野を見つめる。
「……人間が私に容易く話しかけるな!」
これまでに聞いた悠人の声、これまでに見た悠人の顔で怒鳴り付けられれば涙目になり消えてしまいそうな声で謝る。
「もう、お前の知っている財前悠人はいない。さ、もうそこの女と帰れ。残念だったな。本当の友達と……こいつさえ連れてこなきゃこんなことにならなかっただろうに」
「前野帝臣(マエノミカドオミ)、無駄口をたたくな。だいたい人間と話しているのがばれれば他の神に何を言われるやら」
これまでに見たことのない冷たい目線を一瞬だけ愛結に向けてそれ以降は見ることもやめた火鏡崎野。
愛結は悠人を拒んだことを後悔してしまった。
本当は、悠人だったのかもしれない人を拒んでしまった、記憶が消えた。これまで一緒にいたのは、悠人ではなかったのか、と。