夜の女神
「仕事が回された」

男は入室と同時にそう高らかに言い放つ。ベッドに仕事着のまま寝転がっていた女にして見 れば。


部屋にノックも無しに入ったことや。1時間前に屋敷に帰ってきてようやく眠りにつけたと ころに邪魔してきたこと、それらへの文句を多大なる労力の元飲み込むことで反応が遅れた。


「……回された?」

働かない頭でも簡単な言葉節の違和感には気付ける。

男は甘い顔に愛想の無い無表情を浮かべ、つかつかと歩み寄るとベッドサイドに腰を降ろす。




「クライアントと顔合わせがあったが、男ではなく女を用意しろと言ってきた」


女の髪を宝石か何かのように指先でそっと絡め口元に持ち上げる男をジ、と見つめる女。
数秒の後に理解と了承、どちらの意も込めた頷きをひとつ落として見せる。



「何時から」

「今夜から」

「怒るわよ…」

「お前は怒ると機嫌を取らせてもくれないから困る」



そこで本日初めてクツリ、と喉奥を鳴らすように笑みを零し片眉を上げて困ったような表情 を作る男。
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