夜の女神
良い噂は聞かない――――というのは世の評価で、こちら側で仕事をする女にとってはその 噂とやらが真実だと知っていた。
そこから導き出されるのは簡単な話。
「嫌われ者の晴れ舞台、招かれざる客から御令嬢を守れってことね」
「招かれざる客と言っても俺たちと同業者でも無し。起こっても爆竹が投げ込まれたりだろう」
「…………」
「そういう顔をするなよ、媚びを売って損はない相手が上にいる奴だ」
「……面倒ね」
女はそうアンニュイな声音で溜め息をもらし腕を目元にのせた。いつの間にか昇った朝日が煩わしい。
それをくすりと笑った男が、女の頬に指先を這わせ、顔を近付けると甘美な声音を耳朶に絡ませる。
「帰ってきたら好きなだけ我が儘を聞いてやるから」
女はちらり、男を見上げて。
「…帰ったら、美味しい紅茶を一緒に飲みたい」
男は珍しく声を上げて笑い、女の頬に唇を落しながら囁いた。
「お安い御用だ」