夜の女神
ギィ…

「………………………………」

扉をあけた本人は、質のいいチェアに
不機嫌そうに座る女を見て 困ったように苦笑いした。



漆黒のスーツがよく似合う男が、口許に浮かべた微笑が闇夜に怪しげな色を漂わせるのを見た女 は直ぐに文句を吐き出した。


「随分遅かったじゃない。死んだかと思ったわ。」

「なんだ、心配してくれていたのか」

「ハッ、まさか。早く屋敷に帰りたかったのよ。」

「そんなに怒るな。子供じゃあるまいし」

「あら、怒らせたのは誰よ。というか何をしてたの」


男はその言葉を愉快そうに聞きながら女の座っているチェアに近付き
その綺麗な黒髪を掬い口づけた。


女はいつもながら映画のワンシーンを見てるみたいと頭の片隅で考えながらも
男の愉快そうな顔に、眉間に皺を寄せた。
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