夜の女神
「なくしたならまた買ってやる」

それに一度立ち止まった女だが、ゆっくりと怒りを孕んだ瞳で男を振り返り。





「…あれ以外、いらないわ」

「そうか」

「なぜ笑うのよ」

「いや?愛しいことを言うな、と」

「夜の相手を探すなら他を当たって」



男がやったピアスは、女を攫ってきてから直ぐに与えたものだった。


    それは所謂―――独占欲。

俺のものだと周りにも、そして女自身にも誇示してやるように与えたもの。

女はにやにやと未だに笑っているだろう男に舌打ちをし、足をさらに早める。仕事中に気付 いた、耳の違和感。


指先で確認すれば、そこに石の固さがなく背筋が凍ったものだ。
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