ドラマチック・ロマンス
花菜を好きになる奴は、俺だけじゃない。その現実に心に雨がぽつんとひと粒、落ちた。




「伊吹くん、どうしたの、元気ないじゃない?」




「え、そうですか?」




配達に行った、おばちゃんからも声をかけられる始末。おばちゃんに、“そんなことないですよ”と笑いかけると、おばちゃんも微笑んでくれて一安心。




不安が不安を呼び、不安になる。たった、一人の女性のために、これ程の、幾つもの感情が俺に襲いかかってくるとは思わなかった。



“花菜は俺が守るんだ”とか、ヒーローみたいなことを思っていたはずなのに、波に寄って消されてしまった気分。



何でもそうなんだろうけど、すべて自分の思っている様には、なかなか行かないものなんだ。





俺は、残りの配達を終わらせると、どんより気分のまま家に向って、車を走らせた。
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