【完】矢野くん、ラブレターを受け取ってくれますか?






それから昼休みになり、私と拓磨くんはいつものように屋上でお弁当を食べていた。



「あ、そういえば今日もまたリンゴ持ってきたよ」



「マジで?」



「うん、はいどーぞ!」



拓磨くんの前にリンゴの入ったタッパーを差し出す。



「じゃ、いただきます」



少し嬉しそうにタッパーを開けると、拓磨くんはリンゴを早速つまんだ。



「ん、美味い」



「拓磨くんってほんと、リンゴ好きだね」



「……実はリンゴは母親との唯一記憶に残ってる思い出なんだ」



「え……?」



お母さんとの唯一の思い出……?



「写真は母親が俺を捨てたってわかったときに捨てちゃって顔もぼんやりとしか覚えてないし、声だって全然思い出せない。でも、母親がよくリンゴを切って俺に食べさせてくれたってことだけは鮮明に覚えてるんだ」



「そう、なんだ」



拓磨くんの表情はとても切ないものだった。



きっと拓磨くんは、今でも心のどこかでお母さんのこと……。
じゃないと、リンゴなんて食べようと思わないよね?
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