【完】矢野くん、ラブレターを受け取ってくれますか?
「母親のこと、キライだって言ってるけど……やっぱり心のどこかでまだ母親に会えることを期待してるのかもね」
「…………」
「もう、今さら母親を探そうって思っても手がかりなんてないけどね。父親も」
拓磨くんの両親はどんな人だったんだろう。
本当に拓磨くんのことを捨てたんだろうか。
拓磨くんに愛情がないお母さんが切ってくれたリンゴなんて、普通覚えているんだろうか。
拓磨くんにとっていい思い出だから覚えているんじゃないんだろうか。
私の頭にふと疑問がよぎる。
「でも、俺は後悔してないよ」
「え?」
「だってこの“矢野”っていう育ての親の苗字のおかげで、美憂と今こうやって一緒にいられるんだからな」
「拓磨くん……」
そうだ、私が今、拓磨くんのそばにいられるのは“矢野”っていう苗字のおかげなんだ。
こんな偶然、あるだろうか?
もしかしたら私と拓磨くんが生まれたときに、神様が仕掛けたことなのかもしれない。
「運命、みたいだよね」
フッと笑って私の髪の毛に指を通す。
拓磨くんからする甘い匂いに酔いしれそうになる。
あぁ、幸せだなぁ。
この時間がずっと続けばいいな。
そう、思った。