そんだけ。―『好き』が始まった日の話。
海に行くと心がざわざわするのはなぜだろう。
片道100分かけて着いたそこは、潮風が吹いて、広くて。

どうしようもなくて。

あたしは思わず大階段をわざとぱたぱた音を立てながら駆け上がる。


スカートが舞ったけど気付かないふりをするのに、いっぱいいっぱい。

うしろに観覧車が見えることに気付かないふりをするのにも、いっぱいいっぱい。


水族館の入口から奥に入った薄暗いところまで来たところで、あたしはようやく落ち着いて、その人の横に並んで歩くことができた。
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