恋愛リハビリステーション
「ああ、放っといていいぞ」
三嶋くんも私の行動に気がついて近くのグラスを端に寄せ始めた時、背後からそんな言葉が投げかけられた。
振り向けば、両手にビールとウーロン茶を持った店員さん。
「あとは店員がやるから、客らしく飲んどけ。ほら、ビール」
「別に普通のことじゃない。あとビールは私のじゃなくて奥のマスターのぶん」
目線でマスターの方を彼に示すと同時に、奥の席から「にいちゃん!生はこっちだ!」「マスターは酔いすぎですウーロン茶飲んでください!」などと大きめの声が彼を呼んだ。
へい、お待ち!なんて威勢良く返事をしながらマスターと隣に座る先輩に飲み物を託すと、彼は再び私の前に戻ってきた。
「あんまりしけたツラしてんじゃねえぞ?酒が不味くなっちまうだろ」
「眠いだけよ、気にしないで」
「ああ、お前はほんとに酒弱いもんな」
新人の前で潰れんなよ!と白い歯を見せてにかっと笑いながら、無骨なその指先で私の髪をくしゃりとかき混ぜた。
ーーああ、その癖は本当に、嫌いよ。
私は指先一つ動かせないまま、離れていく彼の背中を見送った。オトコノヒトは、本当にわからない。
「今の、先輩の彼氏サン、ですか?」
「……はっ?」
すっかり存在を忘れていた新人さんの言葉に勢いよく振り返ると、三嶋くんはなにか物珍しいものでも見るように、既に見えなくなった彼の背中を見つめていた。
それからぱちりと私と視線を合わせると、彼の瞳はそのまま私の目を覗き込んでくる。