涙がこぼれる季節(とき)【完】
「あー、もう。やってらんねぇぜ。俺、帰るから」


不安的中――。


さすがに限界だったらしく、悠斗が帰り支度を始めてしまった。


「まだ、勉強終わってないじゃん」

「家で一人でやるし」

「一人じゃ寝ちゃうくせに」

「……寝ないし」


悠斗の意思は固いようで、


「もう少ししたら、お母さんがマドレーヌ持って来てくれるよ。

しかも、焼きたてだよ。悠斗、好きだったよね」


結衣は奥の手を出してきた。


「…………」


早くも、固いはずの悠斗の意思は、揺れ始め――。


「せっかく、悠斗のために作ってもらったんだけどな~」


結衣の愛らしい眼差しに、


「……マドレーヌ食ってから帰る」


一度しまったノートと問題集を、再び机に広げた。

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