涙がこぼれる季節(とき)【完】
快適な図書館で夕方まで勉強して外に出ると、蒸し暑さとセミの鳴き声とに、一瞬にして夏へと引き戻された。


図書館から結衣の家までは、約15分。


オレは、今日こそ、結衣と手をつなぐつもりだった。


つき合ってからほぼ毎日そのチャンスはあったが、誰かの目が気になったり、夏ゆえ余計に手が汗ばんでしまいそうで――。


いや、結局は、勇気が出なかったのだ。



今日こそは――気合を入れた時、



「あ、ちょっと寄ってこ」


何を思ったのか、結衣は出身小学校の門の中に入って行った。


校庭では少年野球チームが練習しており、監督らしきおじさんと何やら話し、結衣はオレの元へ戻って来た。


「ちょっと見て行こうよ」


少年野球の練習を? なんで?


「もうちょっと……修ちゃんと、一緒にいたいんだもん」


結衣の、上目遣いと殺し文句――。


反論なんて、あるはずがない。

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