涙がこぼれる季節(とき)【完】
<佐伯美桜>


夏休み最後の土曜日、S市の花火大会に野球部の2年生で行くことになった。


結衣と(中村)真紀と一緒に待ち合わせ場所に行くと、


「オイオイ、花火大会には浴衣だろ」


タモリ――本名は森田。この呼び名の説明は不要であろう――が、私たちを見つけるなり、叫んだ。


浴衣を着ていくか、という話題は私たちの間でも出たが。


カレシと行くなら着るけどね~。


結衣と真紀は渋い顔をした。


「なんであんたらと会うのに、浴衣着る必要があるねん」


3人一致の結論を真紀がいつものノリで返したが、タモリと周りの男子たちはなんだか本気でガッカリしている様子。


つまり、それほど、結衣の浴衣姿を期待していたらしい。


この、目の前で肩を落としている男子たちは、練習後やなにかイベントがあると少しでも親しくなろうとして結衣のそばにやって来る、わかりやすい人たち。


そして、向こうで数人と騒ぎながらも、チラチラこちらを盗み見ている吉崎は、わかりにくい人。


吉崎の気持ちには、多分、私と悠斗しか気づいていないだろう。

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