涙がこぼれる季節(とき)【完】
それでも、悠斗は私の家に向かって歩き出し、私と美桜ちゃんも後に続いた。


「悠斗、言い過ぎ~」


空気を変えようとして美桜ちゃんがおどけると、


「うるせ~よ」


悠斗の口調はさっきより柔らかくなっていて、一安心。



「でも、私も、今度は結衣が自分で行動するべきだと思う」

「え?」


「うちの部には暗黙のルールがあるから、まだ告白はダメだけど、アピールはしてもいいんじゃない?

というか、しないと伝わらないでしょ、吉崎には。

おばあちゃんの話とか、多分、悠斗が弟にご飯作ってるっていうのも信じてるよ、あの分じゃ」


美桜ちゃんがあきれるのも、無理はない。


悠斗には、弟などいなかった。


悠斗がひとりっ子ということは、野球部内でも何度も話題になっていたのに、吉崎は悠斗のウソを信じきっている様子だった。


……吉崎は、「いい人」だった。

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