なみだのまえに
なみだのまえに
「え、別れたの…!?」
「うん、だってあたし、遠距離なんて絶対耐えられないもん」
カラン、と手元のグラスに入った氷が鳴った。
グラスに入っていたクリームソーダは、随分前に飲みほしていた。
もう氷だけになったグラスの中を、手持ちぶさたに細長いスプーンでくるくるとかき混ぜていたら、溶けかけの氷が、もう一度音を立ててグラスの底に落ちていく。
「とりあえず、ふたりには報告しておこうと思って」
そう言って、目の前に座る美少女は、さも当たり前のように彼氏との別れを報告してきた。
私と、そして隣に座る友達は、言葉を探しあぐねてしばらく何も言えなかった。
……だって、そんな簡単に信じられないよ。
昨日まで、あんなにラブラブだったのに。
こんなにあっさり。
微塵の感傷も感じさせずに。
好きだった人のことを、手放せるものなの?
「……そっか」
ようやく口を継いで出てきた言葉は、自分でも情けなくなるほど意味のない相槌だったけれど、隣に座る彼女も反射のように「そっか」とオウム返しにして。
そして目の前に座る彼女も、「うん、そうなの」と頷いた。
……なんだろう。この虚しいやりとりは。
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