なみだのまえに
私の志望校は、地元から少し離れた県にある。
その大学に入るために私は今の高校を選んだ。
だから、迷う余地なんてなかったし、私がその大学を選ぶことは言わずとも樹は分かっていると思っていた。
……でも、もしかしてそれは間違いだったのかな。
私が樹に合わせて、関東の大学に進むべきだった?
今まで疑ったことがなかった自分の選択が急に儚いものに思えた。
こんなに悩んでいるのは、不安になっているのは、自分が原因でもあるの?
「……あー、もう。違うからな?お前が行きたい大学を考え直せとか、そういうことを言ってるんじゃなくて」
私の思考を先読んだような樹の言葉に、私が彼を見ると、まっすぐに視線がぶつかった。
すぐに樹がその視線をそらして、しかしすぐに思い直したように合わせる。
「……一度しか言わないから、ちゃんと聞いといて欲しいんだけど」
「うん」
「俺は、そういうお前が好きなんだよ」
「……え?」
い、今。
樹、好きって言った?
告白のとき以来じゃない!?
「だから、俺たちは藤澤たちとは違うんだって。お前は多分、俺がお前の進路にあわせて志望校を決めるような男だったら、こうして隣にはいてくれないだろ。
俺は、高橋のまっすぐなとこが好きだ。お前だって、俺のそういうところを気に入ってくれてるんだと思ってたけど、違う?」
「ち、違わない……」
……まっすぐに自分の道を見てる樹に、私はどうしようもなく惹かれたんだ。
私の答えを聞いた樹は、少し安心したように笑った。