なみだのまえに
「不安になんてならなくていい。
……高橋が今と変わらずに前を向いていてくれる限り、俺はちゃんとお前のことが好きだから」
いつもの樹と同じ、まっすぐで冷静な声が、どうしてか、今だけは。
ずっと優しく、特別な響きを持っているような気がした。
これからの将来。
違う場所を目指す私たちは、もしかしたらもう二度と同じ場所で生きることはないのかもしれない。
……だけど。
それでも、信じることにするね。
いつか。
生きる場所が違っても、いつか。
思い合う時間を重ねて、また君の隣で笑える日が来ると。
「……私も、樹が樹らしくいてくれたら、ずっと樹だけが好きだよ」
私が樹の言葉にそう返したら、樹は少し照れたように「ん」と視線を伏せて。
ふいに重なったてのひらの温もりに、私は小さく微笑んだ。
……うん。
私、大丈夫だ。
もう少しで遠く離れてしまう温もりを、たくさん記憶に刻んでおこう。
また一緒にいられる日が来るまで、きっと何度でもこの手が恋しくなるから。