なみだのまえに
なになに、と興味津々の瞳を向けると、樹は再び、躊躇うように視線を伏せた。
「……いや、やっぱやめ」
「ダメ。やっぱやめる、は無しだよ!」
樹の言葉を先回りして遮ると、彼は諦めたように息をついて、私を見た。
「……らしくないこと言うけど、引かねぇ?」
「引かないから、早く教えてよー!」
樹がこんなふうに言葉を躊躇うなんて珍しくて、一層気になる。
私の諦めの悪さを知っている樹は、観念したようにゆっくりと口を開いた。
「……俺の知らないところで、高橋が泣きませんように、って……」
ぽつり。
呟くような声でそう言った樹の言葉を、私はすぐには理解できなくて。
「……」
想いばかりが溢れて何も言葉にできずにいた私に、樹が恨めしげな視線を向けてきた。
「やっぱり引いてるんじゃねーかよ!」
「え!?
違うよ!……う、うれしくて」
私の弁解に、嘘つけ、と言いかけた樹だけど、どうやら私が今にも泣きそうな顔をしていることに気づいたらしく、すぐに言葉を引っ込めた。
「……本当に、うれしい」
目尻にたまった滴が、ぽたりと頬を伝っていった。
「……ん」
ふいっ、と照れたような相槌と共に視線を逸らしてしまった樹。
そんな樹が愛しくて、思わず小さな笑みがこぼれた。
「ふふ」
「笑ってんじゃねぇよ。
……あー、やっぱ言わなきゃよかった」
そんなことを言いながらも、繋いだ手に込められた力がきゅっ、と強くなって。
「……樹、だいすき」
彼にだけ聞こえるような小声で呟くと、樹の耳が赤くなったのが見えて、心がふわっと温かくなった。