なみだのまえに
その不安は、今日、茉莉果の別れ話を聞くまでもなく感じていたものだ。
だから、あんなにラブラブだった茉莉果たちが別れると聞いて、その不安は急に現実味を帯びて大きくなっていた。
────私からは、別れよう、なんて言わない。
でも。
もしも樹からそう言われたら、私はきっと受け入れるしかないと思う。
「あー、もう。ごめんって。そんな泣きそうな顔しないの」
「泣きそうな顔なんてしてないし……」
「してたよ。っていうか、未来、これから佐野くんと待ち合わせてるって言ってなかった?時間、大丈夫?」
理沙の声でハッとして時計を確認すると、樹と待ち合わせている時間まで、あと10分を切っていた。
や、やば!!
「うっそ、もうこんな時間!?
ありがと、理沙。教えてくれなかったら遅刻確実だった!」
「そしたら、またあの低音ボイスで嫌ってほど怒られてたんだろうね」
あわただしく席を立つと、茉莉果にまで冷静に指摘されてしまってなんだか悔しい。
言い返せないのが更に悔しい。
ていうか、その言い方だとまるで私がいつも樹に怒られているみたいじゃん!
「これ、お金置いてくね!じゃあ、また!」
財布から千円札を取り出してテーブルの上に置き、「そんなの今度でいいのに」という声を背中に受けながら、カフェを出た。