なみだのまえに
外に出ると冷たい風が、ぶわっ、と強く吹き付けてきて、巻きかけだったマフラーを慌てて首にぐるりと巻きつける。
樹との待ち合わせ場所までは、歩いて5分くらいだ。
茉莉果に指摘されたとおり、悪気はないんだけど遅刻癖のある私は、待ち合わせに遅れるたびに樹に怒られる。
長い間グチグチと根に持って言うタイプではないし、嫌味っぽいわけでもない。
怒られるっていうか、叱られる、っていう方が合っているかも。
……って、同い年の彼氏にこんなこと思うのもどうなの?
私、やっぱりもう少し大人にならなきゃダメだよね……。
今年の夏まで野球部のキャプテンをしていた樹は、大学でも野球を続けるらしく、東京の有名私立大学に進学を決めていた。
私の高校は、全国的にも名前が知られているくらい、結構な強豪校。
そんな場所で1年間、キャプテンとして頑張っていた樹は、私が思っている以上にきっとすごい人なんだと思う。
私は根っからのインドア派だから、入っていた部活も文化部で。
運動部独特の雰囲気もあまり知らないから、樹の苦労をあまり分かってあげられなくて、支えてあげられなくて、樹が現役で頑張っていたころは、それがとてももどかしかった。
きっと、卒業してもこのもどかしさは拭えないんだろうなぁって思う。
会えない分、余計に。
「高橋」
待ち合わせ場所である駅の待合室の中に入ろうとしたら、後ろから聞こえた声に反射的に振り返る。
「珍しい。今日は早いな」
「失礼だなぁ、私だっていつも遅刻するわけじゃないんだから」
「どの口がそれを言うんだよ」