なみだのまえに

ふっ、と笑みをこぼした樹に、私まで嬉しくなった。

樹の隣に並んで、歩き出す。


「あ、そうだ。あけましておめでとう、樹」

「おー、あけましておめでとう」


そういえば年が明けてから初めて会うんだった、と思い出してペコリと小さく頭を下げたら、樹も同じようにしてくれた。

結構な長身の樹がやると、その仕草が似合っていなくて、なんだか可愛い。

……って、可愛いなんて、贔屓目かな?

野球部でキャッチャーをしていた樹は、それなりにがっしりした体つきをしている。

着やせするタイプみたいで、ぱっと見はそんなふうには見えないのだけど。


「絶対、混んでるよね」

今日は、初詣のために神社に向かっている。

地元では一番大きくて有名な神社だから、ローカルニュースなんかでも昨日の大晦日から今朝にかけての初詣でにぎわう様子が映されていた。

画面越しでもため息が零れてしまうくらい、すごい人出だった。


「だろうな。だから今までは、元旦の初詣って避けてたんだけど」

少し湿った雪の上をザクザクと歩いていると、だんだんと周りの人が増えてきたような気がする。

出店で売っているような食べ物を持っている人たちも目につくようになって、しばらくすると神社の赤い鳥居が見えてきた。

ここ最近ずっと天気が悪く、今日も朝から降ったり止んだりを繰り返している雪の空。

青空には程遠い灰色に近い白の空に、鳥居の赤がぼんやりと浮かんでいるように見える。

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