なみだのまえに
樹がじっと私の顔を見てくる。
まるで、言葉にしていない本心を探ろうとしているようだった。
しばしの沈黙が流れ、やがて樹はひとつ、息をついて。
「……藤澤、別れたらしいな」
と、唐突に切り出した。
────藤澤、というのは茉莉果のこと。
別れたことは私もさっき聞いたばかりだし、衝撃的ではあったけれど、どうして今、茉莉果の話……?
樹の言わんとしていることが分からず、私は困ってしまった。
「え、と。……うん、そうみたいだね」
とりあえずそう返すけど、樹は不満げな表情。
「……高橋のことだから、藤澤たちの別れ話に、もしかして自分も、なんて無駄な想像して不安になったんじゃないかって思ったんだけど、違った?」
「!」
冷たい空気を震わせた樹の声は、先程と変わらず、まっすぐで、迷いがなくて。
あまりに的確に見抜かれた本心に、今度は私のほうが驚く番だった。
「どうして……」
思わずそんな声が零れた私に、樹は「やっぱり」とこれ見よがしに大きなため息を吐き出す。