Pastel Lover

口にして、ほんのちょっと後悔した。


治まらない動悸。ショルダーバッグの紐をぎゅっと握りしめて、隣に並ぶ桐山くんの表情を窺ってみた。



「...桐山、くん?」



顔を上げれば、彼はわたしの方をみてはいなかった。

わたしが名前を呼ぶと、彼はようやく反応を示した。口に手を当てたまま、こちらの方を向いた。その頬は、ほんのり赤く染まっていて、どきりとした。



「そういうの言われると俺、勘違いしちゃいますよ」


「...!」



と空いていた手を取られ、ぎゅ、と握られた。



「これくらい許してください。今日だけでも。...だめですか?」


「...いい、けど...」



その聞き方はずるいな。

指先から緊張とか、自分の感情が伝わってしまいそう。自分とは違う、大きな手。意識すればするほど、おかしくなる。慣れない事ばかりで。それは彼も、同じなんだと思うけれど。


ああ、暑くて熱くてクラクラする。



わたしたちは手を繋いだまま、美術館へ向かって歩き出した。



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