Pastel Lover
言われるがまま教室に数歩足を踏み入れると、独特な絵具の匂いがした。
「えーと、何すればいいんだろ?」
俺を招き入れるなり、そう首をかしげた彼女。そういえばこの教室に、この2人以外の人影が見当たらない。まさか3年がいないなんてことは...あるのか?
でも部員がこれだけなんてちょっと考え難い。
廃部とかなら募集なんてしていないだろうし。この2人もそこまで喜ばないはず。だから廃部とかではないんだろうけれど。
意見を求めて彼女は背の高い先輩を見上げた。
彼もまた、困ったような顔。
「もー。今日なんで部長来てないの!部員集めるチャンスだってのに、熱なんか出しちゃって」
「それは許してやれよ」
「貴重な3年部員なのに。今日はかすみちゃんもにしだくんも来てないし」
「にしだはいつも来ねぇけどな」
「わたしとけいやだけとか寂しい」
「まあ...」
どうやら、この男の先輩は"けいや"と言うらしい。
この会話からして部長はちゃんといるらしい。他の部員も。あまり来てないらしいけど。要するに、幽霊部員ってことか。たぶんこの2人はちゃんと活動しているんだろう。
なんて勝手に分析していれば、ほしのと言うんだろう先輩が、ポニーテールを揺らしてこちらを向いた。