Pastel Lover
それから適当にその辺りを歩いて時間をつぶして、気が付けばもう1時になろうとしていた。桐山くんが、今日はいつになく気さくで話が弾んで、少しびっくりした。だから、時間が過ぎるのも早く感じたのだ。
美術館の方へ着いた時にはもうあと数分で1時半になるところだった。
美術館の中に入ると、冷房が効いていて涼しかった。外とは遮断されたような静けさに、気持ちが高揚した。
受付でパンフレットを受け取る。作品が展示されている部屋に入れば、わたしたちは同時に感嘆の溜息を吐いた。
「すごい...」
隣で彼が静かにポツリと呟いた。わたしは声も出ずに頷いて、心から彼に共感した。本当に、すごいのだ。西洋の絵画は人物画がわりと多い。その、肌の透明感や赤らみ、柔らかさや膨らみを巧みに表現している。瞳も本物のようにリアルで吸い込まれそうだ。
どうしたらこんなに綺麗に描けるのだろうか。
そう思っているのはきっと桐山くんも同じで、わたしたちは1枚目の絵の前でずっと立ち止まって、その絵を眺めていた。ここは、きっとあの色とあの色を混ぜて、あんな風に筆を使ってこんな気持ちで描いたんだろうな、なんて考えながら。
それからわたしたちはずっと、一言も話さずにじっくりと絵を見て回った。
初めであれだけ時間をかけて鑑賞したのだから、全ての絵を見て回るのはとても時間がかかった。やっと全部見終わった時には、なんと2時間半も経っていて驚いた。
それからわたしたちはミュージアムショップへ行き、何時間かぶりの会話を交わした。