Pastel Lover


「あ...!わたしもこれ、すごい好きだなあと思ったの」



そこに描かれている絵には、夜のヨーロッパの港の絵で、美しい街並みと船、暗い海の水面に月がと街灯の灯りが写されていて、その暗い海に一体化したように見える夜空に星がちりばめられているのが、繊細な筆遣いで描かれていた。



わたしは見た瞬間に、息をのんだ。

暗い海なのに透明感が感じられて、その奥深く、異世界へと吸い込まれていきそうな感覚だった。魅了されるとは、まさにこのような感覚なのだろうなんて思った。



だから出口へと出たときから、この絵のポストカードを買おうと決めていたのだった。


それが桐山くんもだったとは。



「素敵な絵ですよね。先輩も同じの買いますか?」


「うん。他にも何枚か見ていいかな?」


「はい。俺もそのつもりなんで」



わたしたちはそれぞれ好きなポストカードや、それ以外に気に入った美術関連のものを購入し、外へ出た。館内は少し肌寒いくらいに感じていたのが、一気に夏の気怠い空気に包まれて、特有の何とも言えない感覚に包まれた。



それからまだ時間があったので、駅周辺をぶらぶらと歩いた。


話の話題がなくなったらなんて心配が多少あったのだけれど、それは杞憂だったようで、驚くほど会話は弾み、あっというまに時間は過ぎていった。

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