Pastel Lover
帰宅したのは午後6時頃で、夏だからまだ日は完全には沈まず辺りは明るかった。家は近いし方向も同じだから必然的に同じ帰路につくことになるのに、桐山くんはわたしに送ります、と言った。それがなんだか嬉しかった。
わたしの家はマンションの5階なのに、ちょうど見えるところからわたしが家の中に入るまで見送ってくれて、玄関の戸が閉まるまで胸の動悸がおさまらなかった。
ドアにもたれて、ふっと息を吐いた。
そして手も洗わずに自分の部屋へ行って、窓から外を見た。
そこにはわたしを見送ってから少し先の自分の家へと帰っていく桐山くんの後ろ姿があった。
わたしは心が締め付けられるような、だけど苦しくなくって、そんななんとも言い難い気持ちになった。
...今日1日を一緒に過ごして、思ったのは、気がとても合うということ。
ポストカードのときもそうだったけれど、レストランでの食事中に話していたことなども、ほぼ同じものが多かったのだ。
犬より猫派なんだとか、好きな音楽、好きな食べ物。
とても些細な事だ。それでもわたしは、そのつながり全部大切にしたいと思った。
だってこんなに気が合う人、滅多にいない。
わたしは無言があまり好きではなくて、沈黙はいつもわたしの心をざわつかせる存在であった。だからわたしは、会話が終わる、そう感じた瞬間に話題を見つけ出して、無理矢理にでも相手にそれを提示してきた。
それはだんだん慣れていくけれど、やっぱり何を話していいかわからない時だってあった。
桐山くんは、第一印象ではわたしの苦手とする「何を話したらいいのかわからない人」だった。それが今や、何も考えなくても話題が見つかるだなんて。
だからわたしにとって彼はきっと、貴重な存在なのだと思う。