Pastel Lover
「ご、ごめん...」
ぽろぽろと止まることを知らない涙が、わたしの目から落ちてゆく。
怖かった。
桐山くんが来てくれなかったら今ごろどうなっていたんだろう。考えただけでもゾッとする。桐山くんがきてくれて本当に良かった。
「......!」
袖を伸ばしてぐいぐいと目を擦っていると、いきなり背中に温かい手が回ってきて、優しく引き寄せられる。驚きで涙が止まってしまった。
...心臓の音、聞こえちゃってそう。
ふわり、彼のシャツから甘い柔軟剤の香り。香水なんかは使わないんだろう、それがなんだかすごく落ち着いて、彼の真似をして、背中に手を回した。
「...先輩」
「...?」
「逃げましょうか」
「え、わっ!」
途端に離れた温もり。
ぐい、と腕を引っ張られて、わたしたちは階段をかけ下りた。