Pastel Lover
わたしの視線の向こうにあったのは。
...桐山、くん。
車両は違ったけど、同じ電車に乗っていたんだろう。ポケットに手を突っ込んで、下を向いて、気だるそうに歩くその後ろ姿。桐山くんだ。
彼は当然ながらわたしに気づくこともなく、遠ざかっていく。
わたしはその後ろをついて歩いた。
...声、掛けてもいいのかな。
いや、別に声掛けるくらい良いと思うけど。なんか掛けにくいっていうか。いつもわたし、どうしてたっけ。どうやって彼の名前を呼んで、その隣に並んでいたんだっけ。
て、いうか。
桐山くん、なんでそんなにゆっり歩くの。
近くなりすぎず、遠くはならないようにと間隔を空けて歩いていたのに、このままじゃ追い付いてしまう。
もうこの際、声を掛けよう。
そう思って息を吸い込んだとき。
桐山くんが、振り向いたのだ。