Pastel Lover
そこにあったのは、日溜まりの中、絵を描くひとりの少女。
扉を勢いよく開けたにも関わらず、彼女は俺に気がつくこともない。その目の前のイーゼルに立て掛けられた絵に向き合っている。
その、真剣な眼差し。
それがあまりにも綺麗で。
久しぶりに、自分の鼓動の音を聞いた気がする。ここのところ、起伏のない毎日を送っていたから、こんなにも心臓が活発に動くなんてことがなかったのだ。
俺はただ、その横顔を見つめた。
見つめることしか、できなかったんだ。
邪魔するなんて論外で、でもこのまま去るのもおかしい。もっと見ていたい、なんて、そんな欲もあった。だから、俺の足は動かなかった。
数分だったのか、数秒だったのかわからない。
美術室の奥にある部屋から、もうひとつの影が現れた。