Pastel Lover
困らせる。ということは、相手の内側に入るということ。
俺は、鈴森先輩の内側に入っていられているのだろうか。1歩だけでもいい、踏み込みたい。だけど俺はそのために、部長のように行動をしているだろうか。
している、とは言えない。
そんなので、内側に入りたいだなんて。そんなの、欲張りすぎる。
たぶん俺は、どっかで自分なんて頑張ったって無駄なんだって、思ってしまっているんだと思う。でもそれはやる前から勝手に決めつけているだけで、無駄かなんてわからないのに、もったいないな。
好きになったんだから、思う存分に突っ走らなければ。
その結果がどんなものであったって、きっと価値はあるはずだから。
「...じゃあ俺、帰ります。このままここにいるのは邪魔になるだけでしょうから」
スッと部長の横を通って、靴を履き替えた。いつ坂田先輩がここへ来るかはわからないけど、彼女が来る前に、早く立ち去らなければ。
「先輩、俺が言うのもあれなんですけど、」
背中を向けていたのを、くるりと反転して彼の方を向いた。
「...頑張って、ください」
本当、俺が言うのはおかしいような気もするけれど。だけど、そう告げた。すると、部長はふっと笑みを作る。
「ああ」
はっきりとその言葉が聞こえてから、俺は帰路についた。