君が為
「俺に道理を説くと言う訳か……良いだろう」
「しかし……っ」
右の者を視線で制して、
「壬生浪士組局長……芹沢 鴨。憶えておいて、損はないだろう」
そのまま低く頭を下げて見せると、次はお前たちだと言わんばかりに、辺りに眼を向けた。
さっきの赤い顔した男は、顔を一瞬歪ませると、観念したかのように名を名乗った。
「同じく局長の、新見 錦だ」
グッと握り締められた彼の拳を見る限り、私は彼に相当嫌われたらしい。
まぁ……人に好かれようが嫌われようが、どうでも良いんだけどね。
「近藤 勇と申す……以後、御見知りおきを」
芹沢さんの左隣りに座る、物腰柔らかそうな落ち着いた感じの人。
この人は、良い人なんだろう。
難しい顔をしていても、性格が滲み出てる。
「右から……副長の土方 歳三、山南 敬介」
「そして、副長助勤の沖田 総司 、藤堂 平助だ」
近藤さんの紹介に合わせて、一人一人、頭を下げた。
……ふーん、よし憶えた。
「天城 美琴です」
「美琴か……良い名を貰ったな」
「……」
芹沢さんは微かに微笑んだ。
てっきり、滅多なことでしか笑わない人だと思っていたけど……。
どうやら、私の勘は当てにならないらしい。
「今、美琴の事で話していてな」
初めて会ったのに、もう呼び捨てなんだ。
そりゃ、芹沢さんの方が私よりも一回りもふた回りも歳上だけど……。
初対面で呼び捨てはちょっと……違和感が。
「と、言いますと……?」
「処遇について話し合ったんだが、まだ纏まらんのだ。刻に美琴、お前……姓があるという事は、武士の出か?」
「は?」
ぶし……?
ぶしって“武士”?
この平成の世に?
まさか、十九世紀じゃあるまいし、武士なんて居るわけない。
「いいえ、違います」
あ、でも先祖を辿ればそうだったかもしれない。
そう思ったけど、私は言わなかった。