君が為
天皇様、引越しでもしたのかな……って、いやいやいや。
日本中で話題になるよ。
生憎そんなニュース、私見てないし、聞いてないし、知らないし!
「あの、まさかとは思いますが…将軍様……なんて、居たりしますか」
痒くもない頭を掻いてそう言うと、全員があっけらかんとした顔になった。
何かが、私の中で確信へと変わっていく。
嘘だ……そんな訳ない。
何かの間違いだ。
「当たり前だ、徳川あってのこの時代、将軍がいなくてどうする」
まるで歌舞伎絵から出てきたような美形……たしか、土方さんが言った。
片目が前髪で隠れているけど、鋭い眼が私に向けられる。
「お前……本当に何処から来た」
芹沢さんが、低い声で再び私に問うた。
背筋が凍るような冷たい眼を向けられて、泣けなしの精神が切れてしまいそうだった。
「最後に、聞いても構いませんか……皆さんは、【平成】という言葉をご存知でしょうか」
頭の中で、けたたましい太鼓の音が鳴り響いた。
身体中に、危険信号が送られる。
知らず知らずのうちに、呼吸が速く、そして浅くなっていく。
各々顔を合わせると、私に向かって首を横に振った。
「……嘘……ぃ……や」
声にならない声を上げて、私の意識は遠退いた。
「ーーー美琴‼︎」
芹沢さんの声が聞こえる。
意識が遠退いていく中でも、太鼓の音は煩く鳴り続けたままだった。