君が為
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「……っ」
私が眼を覚ましたのは、日のどっぷりとくれた真夜中だった。
また、見慣れない天井が目に映る。
冴えない頭でゆっくりと身体を起こすと、暗闇に一つの影があった。
壁に背を預けて、こちらを見つめている。
「ーーやっと起きたか」
聞き覚えのある声。
この声の持ち主を私は知っている。
私は前を見据えたまま、その人の名を口にした。
「藤堂さん」
ーーと。
当たっていたのだろう。
影はゆっくりと立ち上がると、部屋に灯りを付けた。
電気なんて物じゃなく、教科書で出てくるような【行灯】に。
油だろうか。
なんとも言えない臭い変な香りが、鼻につく。
「ずっと……看ててくれたんですか?」
「局長命令だ。それに逆らうような部下がこの世に居るなら、ぜひ御眼に掛かりたいね」
口調はふざけていても、顔は全く笑っていなかった。
「……」
まだ、警戒されてるんだ。
怪しい奴を疑うのは当然と言えば当然だけど……それでも少し悲しいと思ってしまう。
「あの後、どうなったんですか……私の処遇は一体」
「あーー……質問は一つにしろって、答える方の身にもなってくれ」
「……すいません」
「……ぇ」
素直に謝ると、藤堂さんは小さく息を付いた。
意味もなく、前髪を掻き上げる。