君が為
「な、何だよ……変にしおらしいな。昼間のお前はどこに行ったんだ?」
不意に藤堂さんの手が伸びて来て、私の頭をくしゃりと撫でた。
「ひゃっ……」
まさか頭を撫でられるなんて思ってもみなかった私は、ビックリして藤堂さんの顔を見あげる。
「……っ」
藤堂さんは私以上に驚いていた。
視線が何度も、自分の手と私の顔を行き来する。
「……!お、お前が倒れた後、詮議はお開きになった。だから、処遇もまだ出てないさ」
私の視線に気付いた藤堂さんは早口でそう言うと、私の枕元から飛び退いた。
「……そうですか」
まだ処遇、決まってないんだ。
芹沢さん、私のこと怪しくないのかな。
「お前、家は?家族は?」
「……ぃえ」
私は俯いて、首を振った。
息を飲む音が、耳に入る。
「何でだよ、まさか売られたわけじゃないだろうな」
「違います……っ、売られたとか、そんなっ」
「じゃあ何で」
まっすぐに向けられた藤堂さんの視線を受け止め切れなくて、私は視線を逸らした。
本当は、初めて此処で眼を覚ました時、気付いていた。
ここの異変に。
此処の全ては、私と違う。
何かが違うんだ……って。
『当たり前、徳川あってのこの時代だからな』
土方さんの言葉が、重い鈍器のように頭を殴りつける。
あの人の言葉で、一つの疑問が確信へと変わったんだ。
此処は、江戸時代。
それも、動乱の世と言われる幕末だって。
私は、時を超えてしまったんだーーって。