君が為
「あ……ぁあっ」
ーータイムスリップしたーー
その事実を認めた瞬間、言い様のない恐怖が私を襲った。
全身から血の気がサッと引いて、目の前が真っ白になる。
頭の奥が、酷く痛んだ。
全身が震える。
私は震えを庇うようにぎゅっと自分で自分を抱き締めた。
それでも、身体の震えは治まらない。
「どうした。お前……顔色悪いぞ、おいっ!!」
「……ぃやっ!!」
いや……
いやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎
恐い……恐いよ……助けて……っ!!!
「きよはるっ……」
…助けてよ、清春!
ずっと側に居てくれるって言ったのに……肝心な時、隣に居てくれないんだから……。
頭が、割れそうだ。
手の先が痺れて、喉も渇いていた。
目の前が真っ白になって、何も映らない。
ーーー怖いーーー
ただ、その言葉しか出なかった。
「ーー落ち着け」
肩に自分以外の人の体温を感じたかと思うと、私は前に倒れ込んだ。
「……っ‼︎ゃっ……ぃや」
「大丈夫、大丈夫だから」
藤堂さんの腕の中にいるんだと、私は直ぐに悟った。
どうやら取り乱す私を見兼たらしい。
抱きしめ方こそ乱暴だけど、私には何故かそれが一番安心できる。
「……とうどう、さん」
「……落ち着け」
そう言って、背中を不慣れた手付きで撫でてくれる。
『大丈夫……大丈夫』と、藤堂さんが魔法の呪文のように囁くのが、頭の上から聞こえてきた。
「……」
私は彼に全てを預けて、呼吸をすることだけに意識を向けた。
大きく息を吸い込んで、肺に酸素を送る。
それを何度か繰り返すと、僅かではあったが、身体の震えが治まっていった。
大丈夫、大丈夫。
藤堂さんと声を合わせるようにそう心の中で呟くと、私はまた深呼吸を一つ繰り返した。
「気分はどうだ」
暫く経って、藤堂さんが私の顔を覗き込んだ。
至近距離で見ると、かなり整った顔をしている。
恥ずかしいな……会ってばかりの人の前で取り乱しちゃうなんて。
少し火照った頬を片手で隠して、私は藤堂さんを見つめ返す。