君が為
ーーーー
翌朝、私は芹沢さんと二人っきりで対面することになった。
昨日の威圧感が、脳裏に蘇る。
ひやりと冷たい風が肌を撫でた。
障子が少し開いている。
隙間から射し込む陽の光は、平成のものと何も変わらない。
そのことに、私の胸は軽くなった。
全てが変わっているわけではない。
幕末も、平成も、変わらないものが確かにあるんだ。
それが何かはわからないけれど、見つけようとすればいくらでも見つけられる。
この部屋に射し込む、暖かな太陽の光のように。
「藤堂から話は聞かせて貰った。美琴、貴様……此処で働きたいと言ったらしいな」
「はい。私の今の立場から言って、こんな事を言って良いはずない……それは、分かってるんです」
厳しい芹沢さんの眼を、真っ向から見据える。
全身に気を張っていないと、身体が縮んでしまいそうだった。
「……っ‼︎」
一瞬で芹沢さんの手が伸びてきたかと思うと、身体が前にのめる。
芹沢さんは、私の胸倉を掴んでいた。
首を締め付けられながら、芹沢さんと視線を交わらせる。
「俺達がどんな事をするのか、貴様は知っているのか」
「…は…い」
くぐもった声で、私は答える。
【壬生浪士組】
それは後に、【新選組】として日本中に名を馳せていく。
京の治安維持の為に、不逞浪士と戦って、町人を守る。
そう言うと聞こえは良いものの……実際は傷害……殺人をする集団。
鉄の掟で組を縛り上げ、背いたものは切腹。
歴史に興味のない私でも、そのことだけは知っていた。
「俺達に雇われると言うことは、貴様も俺達と同じ人斬りの一員となるのだ。その覚悟が、貴様にあるか?」