君が為
第二章
「ーーおい、天城っ」
「はっ、はいっ‼︎」
ひょんな事で幕末に飛ばされた私、天城 美琴は、壬生浪士組の筆頭局長である芹沢さんに雇われて一週間、毎日が勉強だった。
火の起こし方や着物の着付け、釜戸の使い方、貨幣の価値……。
何もかもが平成と違うから、忘れないよう必死に頭の中にあるノートにメモする日々。
あまりの無知ぶりに最初こそ驚かれたものの、芹沢さんに認められたという事もあって、深く聞かれることはなかった。
それが、何よりも有難い。
まさか『未来から来ました』なんて言って『ああ、それでか』なんて信じてくれる人、そうはいないだろうから。
「ーー遅ぇよ!これから稽古だってことは、お前だって知ってることだろうが」
「も、申し訳ありません!」
木刀を肩に乗せる藤堂さんに急かされて、私は慌てて胴着を掴むと、部屋を飛び出した。
「走れよ、遅刻したら総司のヤツがなんていうか……」
「わかってますっ」
苛々した態度を隠そうともしない彼は、最年少幹部である藤堂 平助さん。
魁先生という異名を持っていて、剣の強さは折り紙付きだ。
「どうすんだよ……ぜってー、あいつキレてるぞ今頃」
「そ、そんなこと言われても」
芹沢さんに認められた後、改めて自己紹介をした私達。
あの時の重苦しかった空気はいったい何処に行ったのか、みんなあたたかく私を迎えてくれた。