君が為
「ほら、君もボーとしてないで、さっさとあっち行けば?」
「はっ、はい!…ぁと…あの、遅れてすみませんでしたっ」
早口でそう言うと、私は沖田さんに背を向けて駆ける。
体力のない私は、皆の枠から外れて毎日個別練習を行っている。
平成の基礎体力は、この時代では無意味に等しいから、沖田さん達に付いていけなかった。
天然理心流の師範である近藤 勇さんが考案してくれた練習メニューは、日々確実に私の体力を向上させてくれる。
それが、嬉しくて仕方なかった。
だけど、自分に力が付いてくる事が、恐怖でもあった。
私が剣術を習っているのは、競うためなんかのものじゃない。
人を、殺すためのものなんだ……って
覚悟していたはずなのに、今頃になって現実と向き合うことになろうとは。
思ってもみなかった。
強くなればなるほど、この剣を誰かに向けるのが恐いんだ……
私は本当に、
この手を血に染めることが出来るのだろうか。
その問いを何度も自問自答する。
今の私に答えられるはずないのに……。