君が為
「ーーどうだね。一応、君の意思を聞いておきたい」
「私が……ですか」
正直近藤さんの話に、私は驚いた。
それでも、答えは決まっている。
悩む必要はなかった。
「承知しました。では、今日にでも準備を進めていきます」
「そうか。すまないな、天城くん」
「いいえ……」
近藤さんに対して低く頭を下げると、私は退室した。
何気なしに空を見上げると、もう月は真上に上がっていた。
随分と時間が経っていたんだな。
長い間座っていた所為で固まった筋肉を解すと、シンとした廊下を静かに歩き出した。
「大阪……か」
歩きながら、先ほどの近藤さんの話を思い出す。
話を要約するとこういう事だ。
諸国を脱藩した尊皇攘夷浪士たちの取り締まりをするようにと、大阪奉行所から依頼され、壬生浪士組は近々大阪に行くことになった。
そして、それに同行する芹沢さんの強い希望により、私も行くことになっているらしい。
なんで、私なんだろう……
私はまだ、剣の腕も未熟だし、この屯所以外の景色を知らない……言ってみれば、親がいないと生きられない子供と同じだ。
私が大阪行きに同行して、何の役に立つとも思えないけれど……
せっかく芹沢さんが推薦してくれたんだ、少しでもあの人の想いに応えたい。
私は両手で小さく頬を打つと、自室までの道のりをまた、静かに歩いた。