君が為

「約束なんて……所詮は気休めにしか過ぎないんだから」



清春の目に自分の姿が映し出される。



私の目に宿るのは、黒い焰。



今を生きる人には、到底宿すことのない闇が、私の中で見え隠れしていた。



自分でもわからない恐怖に怯え、逃げ出したい気持ちが、いつも私の中にあるのは、否定し難い事実だった。



それを清春に悟られないよう淡く微笑んで見せると、私は花弁を風に預ける。



ひとひらの花弁は風と共に舞い、風と共に何処かへ消えていった。



「桜になりたいな……私」



風に吹かれた花弁を見ていると、自然とそんな言葉が口をついて出た。



「ーーなるなよ」



私の手が清春に取られる。



距離がぐっと縮まった。



「桜なんて、すぐに散っちまうじゃねぇか。生き急いでいく桜なんて、お前に似合わねぇよ」



そのまま清春は私の手を引くと、逞しくなった両腕で、私を優しく包み込んだ。



ふわりと春とは違う清春の甘い香りが、私の鼻腔を擽る。



ーー 一体いつから、清春は男の人になったんだろう。



私の知らない、清春が目の前にいる。



よくわからないモヤモヤとした気持ちに、私は心の中で溜息を吐く。



だけど、大人びた清春に抱き締められて、嫌だと感じなかったのもまた、私の中の事実だった。



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