君が為
ーーここは、一体
知らない場所
知らない景色
赤く色づいた紅葉に、黄色く光る銀杏の葉が真っ先に目に留まる。
ここは、どこだろう。
周りに清春の姿は見えない。
いや、清春どころか私以外の人の気配はどこにも感じられなかった。
この空間には……この世界には、私以外誰も存在しない。
不思議と、恐怖心はなかった。
むしろ、その事実に心地良ささえ感じる。
この世界は、なんて私に優しいのだろうと、気を抜けば、溢れ出る魅惑にとらわれてしまいそうだ。
ふわふわとした浮遊感の中を彷徨ううちに、甘い香りがどこからか漂ってきた。
甘い……まるで心の奥まで染み込んでくるこの香りは、確か……。
あの花の香りだ。
秋に咲く、黄色い小さな花がたくさん集まった可愛らしい花。
でも、どうしてだろうか。
この香りを感じるだけで、何故こんなにも胸が締め付けられるんだろう。
ーーだれか、いないの……?
急に、一人でいるこの世界に寂しさを感じ始める。
ーー誰かっ!
誰かに会いたい。
ーーきよ…はる
会いたい、清春に……いや、違う。
清春じゃない。
私が会いたいのは、きっと……
《ーー美琴》